富山マラソン2019

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「もう少し落ち着いたほうがいいかもしれない」序盤、高岡市街の折り返しで確認すると3時間30分のペースメーカーのかなり前を走っていた。5~10km、10~15kmのラップは23分台。かなり力を抜いて楽に走れているし、飛ばしているという意識はまったくないのだが、どうもこの大会は思い入れが強すぎて、前のめりになってしまう。いつもはエイドの固形物に手を出すことはほとんどないのだが、リラックスするために新湊のエイドで評判の「鱒寿司」を手に取ってみる。20km近くを走ってきて食べる酢飯は最強。もともと元気だったが、さらにパワーアップして、中盤の難所、新湊大橋の長~い上りをさくっとやっつける。難所とはいえたかだか高さ50m。立山の60分の1だ。中間点は1:42:48で通過。この時点では、かなり余裕。もうサブ3.5は達成したも同然と思い込み、勝手にライバルに設定しているips細胞の山中教授(大学時代ラグビー部だったことと眼鏡をかけていることくらいしか共通点はないのだが)のベストタイム3:24:42を視野に入れる。

 

3時間30分切りを狙ってこの大会に挑むのは3回目。最初の年はあきらかに力不足で玉砕。2年目は直前に故障。過去2回の反省を踏まえ、今年は雪解けの時期から峠走を取り入れ、夏前からは立山登山マラニック対策のロング走と並行して、いままであまりやってこなかったスピード系のメニューに拘ってきた。次のセットのスタート地点が近づくのが憂鬱になるような、シューズがくちゃくちゃと音を立てるくらいの滝汗をかくような、口のなかが血の味になるような。月間走行距離を伸ばそうという意識はなかったが、やろうと思うことをこなしているうちにその合計はコンスタントに250kmを超えるようになった。そして「ワールドビジネスサテライト」を見ながら、夜な夜な転がし続けた腹筋ローラー。あれはいい買い物だったな。

 

25~30㎞の七美からの折り返しも快調に飛ばす。チーム向こう側のグッチーさんの応援に余裕の笑顔で手を振り、サブ4を目指すと言っていたY岸さんが3時間30分のペースメーカーに食らいついているのを見て「計算間違えていないか」と少し心配になりつつ、その頑張りに元気をもらう。こちらは気づかなかったのだが、ここですれ違ったY田君が「問題なさそうに見えた」と後に言っていたが、たしかにこの時点では何の問題もなかった。「山中教授の記録はちょっと厳しいかな」と思っていたくらいで。30kmあたりで、明らかに失速している先行していたI君を追い越しながら、澤穂希さんの名言「苦しい時は私の背中を見て」に近い気持ちで声をかける「諦めるな。ここから粘れば、まだサブ3.5行けるぞ」(出来ることなら取り消したいセリフその①) レースの3/4を過ぎ、さすがに足は重たくなっているが残り10kmで何かが起きる気配はない。この辺りから、「立山マラニックをすっきり卒業できない友達」のK子さんと並走。徐々にキツさを感じ始めていたタイミングだったので、ここで励ましあいながら走れたのはものすごく力をもらえた。35kmを無事通過。ペースは少し落ちているが、「サブ3.5貯金」の残高は充分。堀井鉄工の近くで高そうなカメラを構える山ガールN子さんに笑顔で「サブ3.5いけます」と宣言。(出来ることなら取り消したいセリフその②)

ところが37kmあたりで、手に痺れ。瞬く間に範囲が広がる。真夏のトライアスロンのレースでゴール後によく陥るあの症状。まさか脱水なのか。こんなに涼しくて雨まで降っているのに。給水だってほとんどのエイドで摂ってきたのに。あと、たった5kmなのに。気合でピッチを保とうとするが、たぶん歩幅が半分くらいになっている。ようやくたどり着いたエイドでスポーツドリンクを3杯飲むが症状に改善なし。その脇を追い抜いてゆく3時間30分のペースランナー。ここでレースは終わった。エイドの陰でヒゲダンが「自分の弱さに、遠ざかっていく未来♪」と歌っているような気がした。残高が怪しくなった貯金はキロ6分半近くまで落ちたペースにすぐに底をつく。事前に終盤の勝負所とよんでいた北代からの上りはふらふら過ぎて、上っていることに気づかなかった(苦笑) 北大橋を越え、41km地点で時計が3時間半を超える。ああ、アテネからマラトンまでの距離が41kmだったら良かったのに。

残り1kmをきりビクトリーロードになるはずだったホームコース環水公園の脇を俯きがちに走る。リーチ、この道を行っても笑える日はこなかったよ。ネットタイム3:36:45でゴール。最後はぐだぐだだったけど、自己ベストを11分更新したのか。この大会は毎回ベストを更新しているのに笑顔でゴールしたことがないな。ゲートをくぐった後、完走した人たちの笑顔がはじけるエリアで、歩を進める気力も体力もなく、冷たい雨の中、ひとり空を見上げる。特別な思いを持って臨んだレースの最後に、サングラスの別の役割を見つけてしまう。そして走り終えた後は、一緒に練習してきたチームメイトたちのゴールを見届けるつもりでいたが、立っていることもままならず、ケニア人Fさん(見た目と国籍は日本人)の涙のサブ4達成の瞬間を見逃す羽目に。体育館の地下でずぶ濡れのまましばらくうずくまり、無理やりバナナと経口補水液を飲み下し、ようやく少しだけ復活。OS-1を開発した人は、本当に偉大だ。みんなを安心させようとグループラインに「命に別状はないから大丈夫」と書き込み、逆に心配させてしまう。こんな日は、なにをやってもちぐはぐだな(苦笑)

 

何が起きたのかは、いまでもはっきりわからない。長い時間をかけて準備をして、最後の最後で取り返しのつかないエラーをしてしまった喪失感と中途半端な達成感が残る。そういえば2か月前にもずいぶんと酸素の薄い場所でこんな気持ちになったな。片思いの彼女は気を持たせるような素振りはするくせに、いつも最後は微笑まない・・・。

 

それでも・・・

目標を決めてそれに挑もうとすると跳ね返されることが圧倒的に多くて、楽しいことより辛いことのほうが多いかもしれないこの面倒くさくて厄介な趣味がやっぱり好きだ。神様は乗り越えられない試練は与えないとか、努力は必ず報われるなんていうのは、たぶん嘘だけど、小さなことの積み重ねが、特別な1日の笑顔に繋がるのだということは信じている。アスリートは難儀だ。明日もいいトレーニングが出来ますように。

日本×南アフリカ

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スクラム、モール、ラインアウト、ブレイクダウンの攻防。そのすべてで圧倒された。二つの放送局の再放送を何度も見てしまうのだが、毎回、後半は「うわぁ、これじゃ何にも出来ないよ」という同じ感想。グループリーグの全試合を、死力を尽くして勝ち上がってきたチームと、決勝トーナメントに照準を合わせてきたチームの差。4年間気づかないふりをしていたけど、ブライトンの奇跡は、勝った側の努力の成果とは違った意味で必然だった。後がないノックアウトステージで本気のティア1を倒すのは、並大抵のことではない。でも、その感覚は、満身創痍の状態でこのステージに立ったからこそ気づくもの。

試合後のJAPANの選手たちの表情は、誇りと悔しさのバランスをうまく消化できないように見えた。快進撃が終わったいま、彼らが背負ってきたものの大きさに思いをはせる。このスポーツをやめようかと思うほど厳しい合宿を経て、世界の強豪と互角にわたり合い、大きな壁に跳ね返されると、人はあんな表情になるのだろう。

ずっとこのスポーツに関わってきたので、世の中の盛り上がり具合を公平に判断できないのだが、スタジアム以外の場所でも、多くの人が祈り、涙する映像を見ていると、選手・スタッフの努力は実ったのだと感じる。「いやぁ、ラグビーがこんなに面白いなんて、いままで知りませんでした」というようなセリフが、あちこちで聞かれる。そんな誉め言葉はいいから、W杯が終わった後もちゃんと注目してくれ。ルールがよくわからなくて、っていう言い訳はもうナシだからな(笑)

この1か月の伝道師としての仕事ぶりは、ラグビーは何人でやるのかも、トライで何点入るかもわからなかった人たちに、日本代表にいる外国生まれの選手たちの気持ちや、ジャッカルやオフロードパスの難しさを理解してもらえたのでいちおう合格点とする。まあ、勝敗予想はずいぶんと外したが(笑)

祭りはまだまだ続く。というより、ここからが本番。

 

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日本×スコットランド

劣勢に立たされた後半、胃が締め付けられるような展開が続く。W杯のゲームにおいてこのような状況に陥ることに対する免疫がない。4本目のトライを取った時点で、このチームの試合が来週も見られることはほぼ決まっているのだから、もっと安心しても良さそうなものだが、決勝トーナメントにいけるかどうかとか、グループリーグを何位で通過するかとか、そんなことより大切なことがあった。このゲームに勝つこと。

次の試合に進むという観点からは、試合前から相手チームのほうが重たいものを背負っていたことは否めない。そして、ホームのアドバンテージは計り知れない大きさのものだった。ただ、当初、日本側に有利とされていた日程は、相手の厚い選手層がそのハンデを消していた。そして必ずしも欧州の選手にとって不利ではない気候条件。もちろんW杯期間中だからブリティッシュライオンズは編成されていない(笑)。そのなかで、ベストメンバーをぶつけてきた本気のスコットランド代表を日本代表が奇策を弄するのではなく真っ向勝負で屠った。こんな日がくるとは・・・

前半、負傷退場を余儀なくされた具の悔し涙に、このチームに関わるひとりひとりが犠牲にしてきたものの大きさを見る。そして、美しすぎる稲垣のトライとそのトライに子供のようにはしゃぐ中島にこのチームの結束を見る。

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 いままでこのスポーツに関心がなかった多くの人が、TVの前に釘付けになっているのは、いまの世の中にいちばん足りなくて、いちばん必要なものを、桜のジャージを着た選手たちがグラウンド上で体現しているからなのだろう。

今節、大型台風が日本を襲い多くの犠牲者が出た。台風の影響で最終戦が中止になり、戦う機会を失ったままグループリーグ最下位が決まったカナダ代表は、台風の爪痕が残る釜石に残り、泥掃除などのボランティア活動に参加した。トンプソンは、被災した人たちのことを考えると「ラグビーは小さいこと」だと言う。でも、大きな力を持っている人は、概してその力を正しく使わない。小さな力だからこそ出来ることがある。日本代表のビクトリーロードには、まだまだ先がある。

準々決勝の対戦相手の南アフリカはW杯での対戦成績では勝率10割(笑)。アイルランドスコットランドとの試合前、ずいぶんと弱気な予想をして面目まるつぶれの伝道師としては強気の予想をしたくなる。そして、このゲームが行われる10/20は平尾誠二さんの命日。この夜、東京スタジアムで「おお、このゲーム、なかなかおもろいやないか」と平尾さんが唸りそうな試合が展開されますように。

 

 

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