第22回立山登山マラニック

「スタート ~ 称名エイド」

スタート前、自分がこの夏やってきたこと、それを支えてくれた人たちのことに思いを巡らせ、まだ夜が明けない空を見上げ大きく息を吐く。初めての参加だった昨年のレースは怖いもの知らずで挑んだ感があったが、二度目の今年はこのレースの難しさをある程度掴んでいる。それを知っていることによる自信と不安のバランスは微妙だ。

レーススタート。直後にクラブのレースに出ていないメンバーの大きな声援を受け、少し泣きそうになる。序盤は、カラダにしみついているキロ6分のペースで調子を見る。海岸線から河川敷に入り、多くのランナーが追い抜いていくが、まったく気にならない。チームTシャツの背中にプリントされた「keep your pace」を守る。すぐにクラブのメンバー3名と合流。BPさんの「去年は呑まないで寝たから全然眠れんかったけど、今年は500ml呑んだからよく眠れたわぁ」という、らしすぎるコメントを聞いて必要以上にリラックスする。

第1エイドの大日橋まで淡々とキロ6分を維持。トイレの列に4人しかいないのを見て、たいしたロスにならないだろうと思い列に並ぶと、なんと4人のうち3人がやたら時間が長くかかる人たち(苦笑)ここまで一緒にきたクラブのメンバーに1km以上離されてしまうロス。それでも、長いレースを考えたら気に留めるレベルではない。

14km地点で愛弟子Iさんにヘッドランプを預け軽量化。これでキロ数秒のペースアップ。雷鳥大橋には出場メンバーの名前がかかれたアイドルうちわを持ったクラブの女子たちが(笑)大騒ぎの間、愛弟子Mさんがアミノ酸補給とシェイクハンズの経口保水液の補充をF1のピットクルーなみの手際の良さで行ってくれる。黄色い声に元気をもらいリフレッシュして第2エイドへ。

岩峅寺の第2エイドでは、なんとなく第1エイドでのロスが気になっていて、エイドには留まらず、おにぎりとパンをわしづかみにしてコースへ戻る。早歩きでおにぎりをほおばっているところにカメラを向けてくる「TEAM AVANTE」のOさん。無駄にあわてふためく。たぶんこの瞬間がほぼ平坦な序盤でいちばん高い心拍数(笑)

大川寺の駅を過ぎ、初めての登りらしい坂を抜け高台の畑のエリアにでると、正面に立山連峰が目に入る。直線距離で40km程度なのだが、遥か遠くに見える。今日の15時までにあそこまで走っていくのか・・・。あ、まだ6時半だから間に合うよな、って、こんな計算を真面目にしている時点で、やっぱりバカだよな(笑)

畑のエリアを抜けるとクラブの私設エイド。あいかわらずすっごく楽しそう。ここまで、ほぼ予定通りなんだけど、ほかのメンバーが先行しているので、調子が悪いのかと心配される。むしろ調子はいいのだが(苦笑)

28km地点には、取引先のSさんの私設エイド。事前にリクエストしてあったスペシャルドリンクをいただく。「ペース配分、完璧ですね」「去年より涼しいんですごく楽です」「絶対、頂上までいけますね」とポジティブだらけの短い会話で、また元気に。

30km地点の公式エイド通過時点で昨年の通過時間にようやく追いつく。序盤のロスを無理して挽回したのではなく、涼しい気温がそうさせてくれたといったところか。かすみ大橋を渡って右岸に戻ってからは、長い列になった集団をなんとなく先頭で引っ張る形になる。今日は火曜日(クラブの練習日)か?(笑)

立山大橋を渡りふたたび左岸に。微妙な傾斜の長~い坂を登り切ったところにランニングクラブ「風のように」のN夫妻の私設エイド。「手作りフルーツ酢炭酸割り」で直前の長い坂の乳酸地獄から復活。この刺激には、昨年も助けられた。

山麓スキー場からの長い下りを抜け立山駅へ。エイド手前のトイレで後続のランナーと一緒になる。「ずっと後ろを走ってきたんですけど、コース取りが完璧ですね。この大会には何度も出られているんですか?」と聞かれ「いえ、2回目です」と煙に巻く(笑) まあ、ラン、自転車、自動車を合わせたら何十回と通っているコースだからね。

39km地点の立山駅エイドでは、トレラン仲間のTさんが。「すっげえ余裕じゃないっすか」「汗ひとつかいてないし」「相当抑えてるでしょ」「ここまで来て、こんだけ余裕ある人、初めて見たわ」と無駄に大げさなエール。たしかにこの先のコースを考えて余力は残しているが、汗ひとつかいてなくはないよ(笑) 奥のほうが騒がしいな、と思ったら、そこには「TEAM AVANTE」のR姉さんとYさんが。ここでR姉さんから衝撃の情報が。「八郎坂が崖崩れで不通になったから、称名エイドから弘法までバスで行くのよ。全部のコースを完走したかったら、また来年も出てね~」え、ええ~っ、ば、バスぅ?

複雑な気持ちに包まれたまま、称名滝へ。レースの途中で、バスに乗れるなんて、これはお得なのか。いやいや、そんなことない。バスに乗りたいんだったら、あのクソ暑いなか、あんな距離走ってない。集中できないまま淡々と坂を上っていると「チーム向こう側」のグッチーさんの私設エイドが。この前、県総で会ったときに、応援に来るって言っていたな。ここで少しの時間しゃべりながら、エイドの人たちがものすごく楽しそうにしているのを見て、レギュレーションがどうなろうと今日という日を楽しもう、と気持ちを切り替えることが出来た。八郎坂をワープしたくらいで、この夏取り組んできたことの価値は揺るがない。

桂台の先、称名エイドまで少しのところでクラブの私設第2エイド。10km地点でおいて行かれたメンバーにここでようやく追いつく。「なんだか微妙な展開だね」と苦笑い。相変わらずの賑やかな雰囲気に、ここにずっといられたら楽しいだろうな、などと考えてしまう。

46km地点称名エイドでは、なかなか正確な情報が入ってこなかったが、最初のバスに乗れた人は弘法エイド(50km地点)、2台目以降は弥陀ヶ原エイド(53km地点)から再スタートらしいとの情報が飛び交う。人によって走る距離が違うという時点で、もう大会としてどうなのかという気がしなくもないが、本来なら称名で打ち切りにしてもいいところを、なんとか山頂まで走ってもらいたいという主催者側の粋な計らいなのだとここは納得する。結局2台目のバスにも乗れず、称名のバス乗り場で炎天下1時間以上待つ羽目に。ようやく3台目のバスに乗り込んだところで、スタッフから微妙すぎる質問が。「時間の関係で、このバスに乗っている人は基本的には室堂(60km地点)からの再スタートになりますが、どうしても弥陀ヶ原(53km地点)から走りたい方はいますか?」ぼくら3名を含む10数名がぱらぱらと手を上げる。あれ、意外と少ないんだな。「ただ、その場合でも室堂の関門は予定どおり13時半とします。いまから向かうと弥陀ヶ原到着は12時20分頃になります」 おいおい先にそれを言えよ、という感じだが、だいぶ休憩もとったことだし、無理な数字ではなさそうなので、そのまま弥陀ヶ原再スタートにしてもらう。「だって、室堂から頂上に行くなんて素人の登山みたいだもんな」まあ、素人はその前に浜黒崎から称名まで46kmも走ったりしないけどね(笑) スタッフがメモを取りながら「はい、変態が14名」と心の中でつぶやいた気がする(笑)

バスが弥陀ヶ原に到着。途中でBPさんの乗る4台目のバスの人たちが時間の関係で再スタートできないことを知る。BPさんの無念はぼくらが晴らします。「では、こちらから走る方は下りて下さい。10分ほど休憩した後、スタートとなります」 えっ、10分休憩って、関門を考えたら地味な試練!? 13時半の関門までは1時間10分ということになる。ちなみに昨年の自分のこの区間のタイムを確認すると1時間14分。あのときはレースが短縮され、室堂がゴールということで全部出し切ろうと思ってけっこうとばしたんだよな。やれやれだぜ。

 

「弥陀ヶ原エイド ~ 室堂エイド」

再スタートしていきなりの酸素の薄さに、この選択を若干後悔する。少し考えればわかることだが、バスのなかで1時間うたた寝している間に標高が1000m近く高くなっていたのだ。追い抜いていく室堂に向かうバス。ああ、いいなぁ(苦笑) 朝の4時から46km坂道を上った筋肉はガチガチに固まっており、この数時間の休みがいい方向に作用している気がしない。なにより一度切れてしまった気持ちを戦闘モードに入れるのに苦労する。急な勾配の部分では適度に歩きを入れ、距離と残り時間を計算しながら諦めずに上る。13時過ぎに天狗平を通過。この頃、室堂エイドで待っていた応援部隊は「3人は、やっぱり間に合わないのかな。でも、最後までよく頑張ったよね」なんて言っていたらしい。室堂バスターミナルが見えてから少しして、いても立ってもいられなくなりコースを逆走してきた応援部隊のT姉さんの姿が。興奮気味のT姉さんを「大丈夫、間に合います。ちゃんと計算していますから」となだめる(笑) 室堂エイドが見えてくる。ぼくらを見つけた黄色い声が数百メートル先から聞こえる。時間的には若干余裕があり、歩きを適度に入れ回復を図りながらいきたいところだが「あの声を聞いちゃったら歩いているところ見せられないよね」とエイドまで走ることにする。エイド直前、弥陀ヶ原からずっと一緒に走りながら、ぼくら3人を励まし続けてくれたトレラン仲間のTさん(39kmエイド参照)が「じゃあ、頂上まで頑張って」と言って、すっと後ろに下がる。話っぷりはがさつだけど、意外とシャイなのだ(笑)

1時25分、室堂着。「絶対間に合うって信じてたよ。みんな、やっぱりすごいよ。」応援部隊、半泣きモード。ここで衝撃の情報その1。関門時間は到着ではなく、スタートとのこと。「この後も行きますか」「もちろんです。すぐ出ます。」 あわてて食料を補給しているうちに、スタッフが背後にまわりリュックのなかの装備品をチェックする。称名で一度、チェックを受けているので問題はないはず。まだ、時間があるのでこのエイドの名物のおかゆもいただく。「この雨具はだめかもしれないですね。ちょっと確認してきます」何言ってるんだろう。去年と同じものだし、称名でも見せてるし。そして衝撃の情報その2が・・・

 

「失格」

そこからのことは、正確には思い出せないのだが「雨具が基準を満たしていないので装備品の不備で失格」が告げられ、このエイドをスタートできないことに。無駄なとげとげしいやりとりをした後、「そういうルールなら従います」と言ったものの、現実を受け入れるのに少し時間がかかる。突然の理不尽に怒り心頭の自分と、日頃トライアスロンの審判員として選手に安全のためのルール厳守を説く立場にいる自分がせめぎ合う。リタイヤの手続きをしていると、TVのインタビュアーが「関門に間に合わなかったいまの気持ちは?」みたいな質問をしてきて、関門に間に合わなかったのではなく装備の不備で失格になったのだ、ということを、ものすごく攻撃的な口調で答えてしまう。向こうも仕事なのだろう「来年はどうしますか」といういま一番聞かれたくない質問が飛んでくる。今回が最後かもしれないと思って頑張ってきたのだ、なんて言っても通じるはずないよな、と思いながら、苦笑いで適当にはぐらかす。あれが放送されたら、そうとうイヤなヤツだと思われるな・・・

 

「ゼッケンをはずせば、この先も行けるんだよね」と応援部隊のT姉さんとFさんと雄山に向かう。さりげない気遣いに感謝しながら、時計を気にしつつ必死に走るはずだったコースを穏やかな気持ちで歩く。このだだっ広い風の吹きぬける美しい景色をこんな気持ちで見ることになるとは思いもしなかった。

頂上までは行かずにゴールのひとつ前の関門「一乃越」で下りてくる仲間を待つことにする。体力は余っているが、いまの自分は頂上まで行くべきではないと思っていた。そこには、一緒に室堂まできたOさんの姿が。ここから先は無理だと思ってリタイヤを決めたという。この前も100kmを完走したOさんは「無理」という言葉のいちばん遠いところにいる人なのだが。3人で頑張ってきたけど、いま頂上を目指しているのはSFのK君だけなのか。霧の向こうで故障を抱えながら頂上を目指すK君のゴールを祈る。そこにアクシデントでオープン参加になってしまった昨年の女子優勝のHさんが下りてくる。「ゴールしてもう下りてきたの?」というHさんに失格の経緯を話す。「そんな・・・、だって、あんなに練習してきたのに・・・」と絶句するHさんの姿に、ずっと感情を抑えて冷静に事実だけを受け止めてようとしていた気持ちが揺らぎ、何かがあふれそうになる。みんなを笑顔にするとか言っておきながら、何をやっているんだ・・・。

 

制限時間の15時を過ぎ、ゴールした仲間たちが続々と下りてくる。昨年DNSだったUさんは、たぶん八郎坂を走っていないことを納得していないから、いまから来年のエントリーの心配をしているはず(笑) この日、快走を見せたY田くんは火曜日の練習でどれだけ手を抜いているかがよくわかった。いままで甘やかしすぎたな。足の故障を抱えていたY子さんはいつもの笑顔。不安ばかりを口にしていたが、また今回もダメダメ詐欺だったか(笑) そしてK君は足を引きずってはいるがいつもの涼しい顔。クールに見える平成生まれだが、絶対に根は昭和のスポ根。そして、一乃越に向かう途中で会った6年越しの夢を叶えたNさん。やっぱり願いを叶える人は、あきらめの悪い人なんだね(笑)。

この夏をともに過ごしてきたひとりひとりのストーリーに心を動かされる。みんな、おつかれさま。山頂ゴール、おめでとう。

 

いろいろあった今回の大会。いちばんの問題は、金で解決できるものなので敢えてスルーする(笑) 冷静にレース運びを振り返ってみると、ほぼ計画通りで、弥陀ヶ原~室堂では少し無理をしたが、ある程度余力を残せていた。ということで、この夏の取り組みは正しかったという総括とする、この件について、一切の異論・反論は受け付けない。そもそも、こんなに充実した楽しい季節を過ごせたことが否定されるなんてありえない。

それでも、いまの気持ちはやっぱり複雑だ。1年以上片思いだった子に、周到に準備して思い切って告白をしたのに、しょうもない横やりが入ったことにより、そもそもその子のことが本当に好きだったのかわからなくなっている状態。この恋の行方は・・・

 

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