富山マラソン2018

坐骨結節の炎症が癒えぬままレース当日を迎える。基本プランは、大ケガすることなく固く自己ベスト狙い。すべての条件が美しく揃った場合に限り、2年越しのサブ3.5狙い。昨年のように闇雲にキロ5分で突っ込むことはせず、前半は自重。5分10〜20秒で坐骨のご機嫌を伺いながら、ハーフまでのロスを5分程度に抑え、後半勝負。思いは尊重しながらも現実的な対応をする。この1年で少しは大人になりました。

10kmまでは1kmごとのラップに多少のバラつきはあるものの、5kmごとは26分で推移。庄川沿いに出たあたりから都内のメジャークラブと思しきネームが入ったランシャツランパンスタイルの先輩にペースメーカーになってもらう。併走している同じチームの人との会話が興味深い。「マラソンで、これは成功したと思えるレースなんて10回に1回だ」 うんうん、メモメモ。「そして失敗したレースの多くは前半のオーバーペースが原因だ」 うんうん、よし、この人について行こう。「前半から突っ込んでもいいのは月間400〜500km走ったときだけだ。150〜200kmでそんなことしたら必ず潰れる」 う〜ん、たぶん、正しいことを言っているのだと思うが実感がわかない。きっと、違う世界に住んでいる人なんだな。別のペースメーカーを探そう・・・
15kmをすぎ庄川に別れを告げ海沿いに出たあたりからは、立山登山マラニックのTシャツを着た爽やかな青年と併走。参加者250名足らずの大会で同じ時間を共有した連帯感からか話がはずむ。新庄川橋を渡りながら「夏場、マラニック対策をやっていたから、こんなの平らに見えるよね」「いや、それはないです」等々。5分台前半を刻んでいるのに「マラニックの参加資格の4時間が切れればよい」と奥ゆかしいことを言っているので「まだ3時間半のペースメーカーに追いつけないことないよ」と煽ってみるが、苦笑いでかわされてしまう。
19kmからは新港大橋の上り。昨年、ここでペースメーカーに追いつこうと飛ばし過ぎ、のちに痛い目にあった経験を踏まえ慎重に。ここまで細心の注意を払ってきたが、長い上りの途中で坐骨のあたりから変な声が聞こえる。「私がいることを忘れたとは言わせないよ」 ああ、まだ20km手前。いろんな意味で痛すぎる。中間点通過は、1時間50分。ここまでプラン通りだったのに・・・。ただ鈍い痛みはあるが、走りに影響を与える酷さではない(と、その時は思った)ので、ペースは維持したまま粘ってみる。
25kmすぎから30km手前までは折り返しコース。26kmくらいで、これまた故障を抱えて前半自重していたSFのエースK君が抜いて行く。彼にとっていまこの位置にいるのは不本意な事だと思うが、残りの距離で自分らしさを発揮してほしい。折り返しの手前、無言のアイコンタクトでエールを交わす。こっちは泣きそうなのに、笑顔、爽やか過ぎだよ。
強い向かい風区間を終え、ようやく折り返し。K君にけっこう離されたな。追い風に乗りスピードを上げたつもりだったが、後で確認すると気のせいだった(泣)。
しばらくすると前から4時間のペースランナーが。コースのいちばん内側に寄り、チームメイトがこの集団につけているか眼を凝らす。ペースメーカーのすぐ後ろに長身のOさん発見。自己ベストを30分更新する気満々の気合の走り。集団の数十メートル後ろに、ここ2レース、あと1分でサブ4の壁が破れなかったSFのMさんの姿が。いつも通りの安定のピッチ。「Mさん、いける、いける、絶対いける!」う〜ん、なんというボキャブラリーの貧弱さ。言いたいことはたくさんあるだろうに、名前をただただ連呼してしまう箱根駅伝の給水係の気持ちが少しだけわかったよ。そして、その後ろにSFのS君。ペースメーカーからはだいぶ距離はあるが、まだ15km以上あるから挽回は可能。「S!ここから、ここから!」と声をかけるが、当の本人は安室奈美恵を聴いていて、コーチの指示は届いていなかった模様。
30kmを過ぎ、たぶん痛いところをかばってバランスの悪い走りになっているのだろう、想定していなかった箇所が痛み出す。ここまで、ネガティブな事はあまり考えずに淡々と来たが、弱気が少し顔をのぞかせそうになる。だが、32km下村のエイド付近でレースに出ていないクラブのメンバーYさんの声援を受け、元気を取り戻す。レース中、自分の名前を呼んでもらえると、なんであんなにパワーが出るのだろう。のこりは10km。普段から練習で走っている距離だ。ペースは思い通りに上がらないが、集中は切れていない。大丈夫、イケる。面白味があるとは言い難い畑と田んぼのなかを、たくさんの応援を受けて走りながら、途中すれ違った仲間の姿を思い出す。泣きそうな表情でサブ3のペースメーカーの前を走っていたHさんや、サブ4の集団に食らいついていたOさんやMさん。そしてレース中出会うことはなかったけど、それぞれのベストを目指してゴールに向かうクラブのメンバーや、様々な理由でスタートラインにつけなかった人たちの事を考える。ん?あまりレースに集中できていないのか。いや、でも、ここで仲間の事を考えるのは、人としてきわめて正しいことのような気がする。35kmを過ぎて、足はゴキゲンな状態とはいえないけど、1kmは短く感じている。最後の上り、北大橋をクリアしてゴールまであと2km。環水公園の手前で体調不良でDNSだったSFのIさんの声が。無理するな、と言ってあったはずだが、雨の中、そうせずにはいられなかったのだろう。でも、おかげでラストスパートをかけられたよ。キレはいまひとつだったけど。
サブ3.5プランでは、後半のハーフは5分速くなる予定だったが、逆に負債を加えてのゴール。とりあえずは自己ベスト更新。いまの状態では、たぶんこれが精一杯だったかな。ゴール地点のボランティアスタッフで参加していたKさんにお帰りと言ってもらい、ホッと一息。雨の中、ありがとうございます。今回も応援の人たちとスタッフの人たちにはすごく支えられたな。

ゴール後は、コース脇でK君とチームメイトのサブ4を見届ける。自分のタイムはぱっとしなかったけど、仲間たちが目標をクリアする姿に立ち会えたのは、ホントに嬉しい。ゴールに向かう清々しい表情にちょっと泣きそう。
サブ4を達成した面々とレースの余韻を楽しむ間もなく、荷物受取場所の地下駐車場の片隅で2分で着替えを済ませ、後続のランナーたちの応援に向かう。事前に決めていたラスト500m地点の応援ポイントに着くと若干バテ気味のS君が現れる。鬼コメントは封印し、とりあえずハイタッチ。さて、後でどんな説教をしようかな(笑) 昨年は、13時ころから雨が強くなり「晴れ男だとか言って、自分がゴールしたらあとはどうでもいいのか」と責められたが、今年はだんだん天気が回復。晴れた空の下、続々とクラブのメンバーが笑顔で現れる。お疲れ様。そして、おめでとう。初参加の人たちも初フルにしてはなかなかのタイムで完走。多くのメンバーがベストを上回るタイムでゴール。同じクラブの人たちがたくさん参加する地元のフルマラソンは、楽しみも倍増だな。

ベストの状態でスタートラインに着くことの難しさを痛感した今回。自己ベストは更新したけれど、もちろんここはゴールじゃない。

来年、この場所で結果を出そう。

長いようで短い1年がまた始まる。
明日もいいトレーニングが出来ますように。