Road to Rio(4)

学生時代、世間は夏休みだというのに、
下界との接触を一切遮断して、
文字通り「山に籠る」菅平合宿は、
本当に憂鬱だった。
上田から高原へ向かうバスの窓からダムが見える辺りで、
もう戻れないと覚悟を決め、
そして泣きたくなったものだ。

でも、本当に泣きはしなかった。

サクラセブンズのメンバーは、
合宿前日、荷物の準備をしながら、
明日からの日々を思うと
自然に涙が出てくるのだと聞いたことがある。


女子7人制ラグビーアジア予選最終日の秩父宮へ。

一緒に観戦した人に聞かれて気付いたのだけれど、
なんと1年2ヶ月ぶりの秩父宮
ラグビーはやっぱり生観戦が一番だよ、
と最近あちこちで言っていたのだが、
実践が伴っていない(苦笑)

この日、予選リーグと順位決定戦でおそらく当たることになる
カザフスタンとの2試合のうち、どちらか引き分け以上で
出場権獲得という圧倒的有利に見えた条件。

13:24からの切符をかけたカザフスタンとの初戦は、
前半終了間際のいちばんいい時間帯に
桑井亜乃のトライで先制するも、
後半、5-7とされ逆転負け。

背負ったものが重すぎるのか、ミスが目立ち、
レフリングとの相性もいまひとつ。
重苦しい雰囲気がスタジアム全体に立ちこめる。
胃は痛いし、喉はカラカラ。
やはり、ラグビーはテレビで観るものかも・・・

迫力あるチアリーディングや和太鼓、
ラグビー絡みの緩〜いイベントによる
インターバルを経て、順位決定戦開始。

5-6位決定戦は、ある程度集中できていた。
試合後、スリランカとグアムの選手たちが
一緒になって肩を抱き合い
バックスタンドにあいさつに来る姿は、
スポーツマンシップノーサイドの精神を体現していて
とても美しい画だった。
3-4位決定戦。観客の大声援の後押しも空しく
惜敗した香港に向けられた温かい拍手は心地よかった。
でも、正直に言うとサクラセブンズのアップが気になって、
あまりこの試合は真剣に観ていなかったような・・・。

そして迎えた決勝。
相手は3時間前に敗れたカザフスタン
君が代斉唱で、すでに泣きそう。
ナショナリズムのかけらもないくせに
サクラセブンズに思いを馳せていたらこのざま。

かつて、ラグビー観戦で経験したことのない重苦しい空気。
7人制の試合って、もっとお祭りのノリじゃなかったっけ。
そもそも代表と母校以外には特別な贔屓チームなどなくて、
一方のチームに肩入れすることに慣れていないのだ。

前半3分、山口真理恵が外勝負。
ゴール前で捕まるが、外側をフォローにていた中村知春がトライ。
難しい位置からの大黒田裕芽のゴールは、視界がぼやけてよく見えず。
7-0。

ラインアウトの精度不足にやきもきしつつも、
好タックルの連続に心を揺さぶられる。
死に物狂いで取り組んだ練習は、
ぜったい嘘をつかない。

あっという間に前半終了。
1mも走っていないのに、体中に乳酸がたまっている。
ふと、喉が異常なほど痛い事に気付く。

後半早々、キックチェイスからフェイズを重ねられ同点に。
なりふりかまわない勢いのカザフスタン代表の気迫を見せつけられ、
スタンドは浮足立っているが、ピッチ上の選手は意外と冷静。
ラインアウトに見切りをつけ、ペナルティからは速攻。
カザフスタンの密集での反則が重なり、リズムを掴む。
後半7分。小出深冬が軽やかなステップで中央にトライ。

直後、自陣深く蹴りこまれたボールに全員がよく戻ってピンチをしのぐ。
走り勝つ、というシンプルにしていちばん厳しい選択が実る。
浅見HCは、何かを伝えられるラグビーをしたい、と言っていたが、
選手全員がその「何か」を理解しているのだろう。
それを理解するために、どれだけの
汗と涙を流したかは想像もつかないけど。

カウントダウンにのせ、
キャプテンがホーンとともに、
ボールをタッチへ。

数年前、中国や香港に歯が立たなかったチームが、
いま歓喜の渦の中に。

両チームの思いが伝わってくる
すばらしい決勝戦だった。

最後まであきらめなかった
カザフスタン代表に拍手。

そしてサクラセブンズが、
今日まで積み上げてきたものに拍手。


2015年は、ラグビーでよく泣いた。
たぶん、大学4年のシーズン以来だな。

・・・

表彰式後、バックスタンドに残っている
「人々がみんな立ち去っても私ここにいるわ」
な人たちのところに、選手たちがやってくる。

「おめでとう」と「ありがとう」が、
あちこちから聞こえる。

浅見HCは、試合後のインタビューで
「一からやり直す」と言っていた。
だからこそ、この時間くらいは、
選手たちをただただ
喜びに浸らせてあげたいと思う。

来年夏の特別な1日の笑顔のために、
明日から、また
たくさんの汗と涙を
流すことになるのだから。