釜石の夢

「オメエが、そう思ってるだげで、オレだぢはいいんだ。」

釜石の夢と故郷気仙沼のどちらのために働けばよいのか
逡巡する筆者に同級生がかけた言葉に
被災地には近しい身内のいない自分も救われる。

「釜石の夢 被災地でワールドカップを」大友信彦 著(講談社)を読む。

この本のキーワードのひとつは「スクラム
世間では、「スクラムを組む」というフレーズを
コラボレーションと同じような意味で簡単に使うけれど、
本来は、違った個性が固いバインドで結ばれて、
圧力に耐えながら、前進しようとすること、
そして一人の力では、出来ないことを成し遂げる手段。

ワールドラグビーの統括責任者による開催立候補地視察で、
建設予定地で若者たちが富来旗を振るシーンは感動的だ。
既存のスタジアムを持たない釜石の
まだ完成形の見えない、小さいけれど、夢のあるスタジアム。
人の心を動かすのは、モノでもお金でもなく、
「思い」なのだと思う。
ワールドカップ釜石招致は、
何かのきっかけが大きな力を動かしたのではなく
たくさんの小さな力と人々の思いが
大きな流れを産んだことに意義があると思う。

イングランド大会における日本代表の活躍で、
空前のブームが巻き起こってはいるけど、
その開催に向けては問題山積みと言われている
2019年の日本大会。
復興とのバランスに細やか過ぎる配慮を見せ、
多くの人の思いの強さと周到な準備で、
数々の困難を乗り越えた釜石はきっと大丈夫。

震災直後、首都圏でも起きた不自由な場面や
2011年5月にこの目で見た仙台港付近の様子などの記憶は、
忘れてはいけないと口では言いながらも、
正直、この本を読むまで薄れつつあった。
釜石市が作成した復興プランには、
「これまで取り組んできたラグビートライアスロンによる
スポーツ振興や交流」と謳われている。
偶然、このふたつに携わっていることも何かの縁。
これからも釜石の夢と東北の復興を応援していこう。
The recovery of Tohoku is with rugby (and triathlon)