ラグビーワールドカップ2015(5)

コンタクトプレーが80分間続くこのスポーツで、
奇跡なんてめったには起こらない。
正直に言うと、自分が生きているうちに
JAPANが南アを屠る日が来るとは、思ってもみなかった。

南アフリカ 32-34 日本
(ブライトン コミュニティ・スタディアム 29,290人)

善戦を受け入れるのは慣れているのだけど、
格別な勝利は、消化に時間がかり、
そして少しだけ苦い。
金星の輝きが大きければ大きいほど、
敗者の落胆が大きいから。
ゲーム後、日本の戦いぶりを称賛してくれた
南アの復活を願ってやまない。
ただし、プールBの1位通過は、譲れないけど。

3勝1敗でベスト8進出。
この1敗が何を意味するのかは、
関係者の間でも共通認識があったはず。
開幕戦「イングランド×フィジー」で
TOP4(優勝候補)とティア2(ランキング2ケタ)の
格差を見せつけられた後では尚更。

ただ、グラウンドに立った彼らだけは、
心から信じていたんだな。
「勝てる」と。

・・・

後半開始早々、PGで逆転した直後、
このゲーム初めてといってもいい
タックルのミスで、
どかんとサイドを破られトライを許したとき、
あ、もしかして、という気持ちがよぎる。

6点差をPG2本で追撃。
なんで、こんな力が残っているんだろう。

後半17分、南アPG成功 22-19
たまに映る観客席の日本人が泣いている。
遠い日本でも心を打たれ放しなのだから、
現地にいたら、それが正常な反応なのだろう。

後半20分、五郎丸PG成功 22-22。
「優勝候補・南アの初戦」を観に来た人たちは、
完全に日本のサポーターになっている。

後半23分、交替で入った相手FWにゴールを割られる。
このスポーツをやったことのある者なら、
この時間にあのような形のトライを獲られて、
ゴールラインで相手のキックを待つ心境が、
どれだけ切ないものか痛いほどわかるはず。
1勝21敗2分のすべてを見てきた者として、
やはり、ここまでなのかという思いが、心をよぎる。

後半28分、そんな心配をよそに、
今大会のベストトライにノミネートされそうな
美しすぎるトライが決まる。
立川が前半から体を張り続けて撒いた種が実る。
五郎丸のキックが決まった瞬間、
ブライトンは、完全に日本のホームに。
このあたりから、TVに映っているのは、
現実に行われているゲームなのかわからなくなってくる。

後半33分、PGで南アがこの試合6度目のリードを奪う。
残り7分。
正しい周到な準備に裏付けされた
最後の勇敢なアタックが始まる。
カウンターからの10数回のフェイズを経て
獲得したゴー前のルペナルティ。
同点のキックを狙わずにタッチキック。
このあたりから画面(正確には視界)がぼやけて不鮮明に。
後で、録画で確認したけど、結果は同じことに(笑)

アディショナルタイム
笛が鳴ったらゲームが終わるという場面。
相手ペナルティに、「勝つためにきた」キャプテンは、
同点のキックではなくスクラムを選択。
具体的に祈れるようになっている時点で、
すでに願いは叶いかかっている。

反則もミスも出来ない場面で、
グラウンドの横幅を最大限に使ったアタックが実る。
最後の左オープンでは、ご丁寧にFB五郎丸を
デコイ(囮)で、モールサイドに走りこませている。
見ているほうは、完全に冷静さを失っていたけど、
あれは気合いや勇敢さだけではない、
理詰めの知的な攻撃だったんだ。


・・・

この勝利で、日本の評価は変わった。
ランキングもスコットランドの上になったようだ。
矛盾しているようだけど、この勝利のせいで
この後の3試合に勝つ可能性は、確実に低くなっている。

負けたら失うものがある厳しい戦い。
でも、きっと大丈夫だろう。
JAPANの31人は、自分たちを信じているから。