福島が好き(4)

11/2〜3は、はす向かいの家のご主人Sさんと福島遠征。
「第6回湯のまち飯坂・茂庭っ湖マラソン」に参戦。

Sさんは、大会に何度か出たことはあるものの、
60歳にしてフルマラソン初チャレンジ。
そのスピリッツに拍手です。

前日は、飯坂温泉泊。
レース当日の朝食を早くとらなければいけないこともあって
素泊まりプランにしたので、夕食は街へ。
駅前のおそば屋さんでカーボローディングの仕上げ。
まだ6時だというのに暖簾をしまいこむおばちゃんに、
ずいぶん早い店じまいですね、とたずねると
「前は夜中の1時ころまでやっていたけど、震災以降はね・・・」と。
正確には原発事故以降ということなんだろう。
「それにもう歳だし。あっ今日は、楽天の応援しなくちゃいけないしね」
日本シリーズの話のときだけおばちゃんの声が明るくなる。
応援しているのは、ジャイアンツだけど、
今年はイーグルスに勝たせてあげてもいいかな、
なんて考えてしまう。
ぼくら明日のマラソンに出るんです、というと
明日はたぶんいい天気だよ、ダムの周りは平坦だし、
紅葉も綺麗だからきっと楽しく走れるよ、といいながら、
自宅の庭で今朝とれたというリンゴをむいてくれて、
これで、最後の100mくらい走れるよ、と笑う。
リンゴ半分と100mの相関はよくわからないけど、
とっても美味しかったです。ありがとうございました。

宿に帰って日本シリーズ観戦。
マーくんを打ち崩してジャイアンツ快勝。
おばちゃん、ゴメンネってカンジ。

参加者は、フル900人、10km200人くらい。
地元の実行委員会と観光協会福島市による
手作りのアットホームな雰囲気。
広告代理店が仕切る首都圏の1万人規模の大会とは違った魅力がある。
Sさんは陸上経験者の娘さんが用意してくれた山もりの補給食を
エストバッグに詰め込んで、入念にストレッチ。
気合い充分です。
ゼリー1個とアミノ酸ハウダーしか持たず、アップも一切しない私に
ずいぶんシンプルに臨むね〜、と感心しつつ呆れ気味。

9:30に10kmの部がスタート。
10分後のスタートに合わせスタート地点へ。
いや〜、なんだかワクワクするな〜、と興奮気味のSさん。
そのワクワク感はいつまで持続するのかな(笑)

号砲からスタート地点通過までは20秒くらい。
板橋のときは10分以上かかったけど、これが普通なんだよね。

まずは、茂庭の街中を10km走る。
案内ではフラットで走り易いということだったけど高低差16m。
その日行われていた大学駅伝の中継では「1区は高低差10mの
タフなコースがランナーを苦しめる」って言ってたけど・・・

家の前まで出てきて応援してくれる
町の人たちの声援がほんとうに温かい。
シャツの第一ボタンまでしっかり止めて
大きな声をはりあげる坊主頭の少年。
椅子に座って、ニコニコしているおばあさん。
うまく説明できないけど、
来て良かったという気持ちにさせられる。

街中を走って一度メイン会場の広瀬公園へ。
ゲストとして10kmの部に出場していた原裕美子さんが、
コース上で笑顔でハイタッチしてくれるが、
直前に汗をぬぐっていて手のひらがびっしょりでったので
「すみません、手が汗だくなんですぅ」と言い訳しながらパス。
原さんって、ぼくのなかではスポーツ刈りの華奢な少女だったけど
ずいぶん大人になったなぁ、なんてヘンなところで感心。

10km通過は58分。
このペースがいつまでもつことやら。

そして10km地点を過ぎると、このコース最大の難所、
茂庭湖へと続く1.7kmで100m(!?)を登る長〜い坂が。
序盤であまり足を使いたくないが、
あまりペースを落としてリズムを乱したくない。
視界には入らない坂の頂上をさがそうとはせずに、
視線を落とし、辛さをマネジメント。
頑張り過ぎないよう注意しつつも、
順位をかなり上げてしまう(汗)。

坂を登り切ったあたりで「ラグビー、頑張れ!」と声をかけられる。
この日は「2019年のラグビーW杯日本開催」と「釜石への開催地招致」
の東北のみなさんへのPRを兼ねて日本代表のレプリカでの参戦。
5kmの第一折り返し付近で確認したら、
1000人以上の参加者でラグビージャージを着ているのはおそらく私一人。
板橋のときは、もう一人いたんだけど。
まあ、あそこは参加者も15倍だしね。

聖光学院のボランティアの生徒がたくさんいる15kmあたりの給水所で
「これ、オススメです」と補給食にはどうみても相応しくない
ケーキを差し出され、正直、あまり食べたくはなかったけど、
彼の気持ちはうれしかったので、ありがとね、と言って受け取る。
その時、「あっ、ラグビー日本代表だ!」と叫んだ子がいて
(正確には日本代表のジャージだ、と言うべきなのだが)調子に乗って
「昨日、オールブラックスに負けちゃってゴメンね」と言って走り去る。
すると数メートル走った後、隣にぴったりついたスリムな美女に
「あの、元日本代表の方なんですか」と問われ、顔から火が出そうになる。
ケーキ食べてて、口の中ぱさぱさでうまくしゃべれないし・・・。
この1時間後くらいに25km地点あたりで失速したのは、たぶんこの時、
心拍数が上がり過ぎたためと思われる。

20km通過は1時間58分。
1.7kmの上りがあったことを考えると、この10kmを60分は、
いいペースのようだが、すでに足には余裕がない(汗)
フラットといわれていた湖周辺もけっこうなアップダウンがあって、
明るい未来をイメージしにくい。
おそば屋のおばちゃん、ここが平らっていうのは、
おばちゃんが車でしか走ったことがないからだよ。
たしかに紅葉はキレイだけどね。

レースも半分以上が経過。
制限時間は6時間だから関門にひっかかることはないだろうけど、
4時間半くらいがやっとな感じ。
いくつもある折り返しでSさんとすれ違うときと、
応援の人がいる地点だけが笑顔になれる時間。

湖周辺の同じルートを2往復するコース設定。
疲れた足には、心が折れるか折れないかのギリギリの距離。
で、くじけそうになるとウオーキングの会みたいな団体が現れて
熱烈な声援を受け、なんとか前に進むスイッチが入る。
そう、福島でギブアップするわけにはいきません。
気力をふりしぼって最後の折り返しへ。

折り返しのかなり手前で、さきほどの美女とすれ違う。
15kmではとなりを走っていたのに、ずいぶん離されたな。
きっと、ちゃんと練習をつんできたんだろうな。
笑顔で「お疲れ様です」と言われてしまい、
僕が失速しているのは貴女のせいなんですよと返したくなる。

最後の折り返し。ゴールまであと9km。
なんだかんだ言って、
このレースが終わりに近づいていることを少し寂しく感じる。
でも、足ははやくゴールに着きたいと言っている。
心とカラダのバランスってむずかしい。

給水所で折り返しに向かうおじさんに
「おっ、ラグビー、頑張れよ」と励まされる。
自分だけではなく、ラグビー界へのエールのようでウレシイ。
本当にありがとうございます。
でも、私のほうがだいぶ前を走っているんですけどね。

ゴールまであと5km。最後のひとつ前の給水所。
予定どおり、ここで最後のアミノ酸パウダーを摂取。
給水所手前で、元気の出る粉末を口に含み、
さぁ水を、と思ったらテーブルの上は空。
水分がすっかり奪われた口の中。
ちょっとしたショックを受けるが、
もっと悲しいのは
担当のボランティアの学生たちが、
申し訳なさそうに途方に暮れていること。
ここまで3時間、いや準備も含めたらもっと長い時間、
支えてくれてありがとう。
っていう気持ちを伝えたかったが、
口の中がぱさぱさすぎて上手くしゃべれず。
なんか、数時間前にもこんなことあったな・・・

40km地点からは長い下り坂。
レース前のイメージでは、
キロ4分ペースでぶっ飛ばすはずだったが、
平地でも悲鳴を上げている踵や足首は
下りでスピードをあげることに
耐えられるわけもなく・・・

ベストには10分ほど及ばないタイムでゴール。
レースまでの準備を含めた過程を振り返れば、
「失敗」と総括せざるを得ないけど、
あまり良くないコンディションのなか、
歩くことなくゴールできたので、
まぁ良しとしよう。

いつかきっと、
この失敗があったから、
と思える日がくるはず。

・・・

そして初フルのSさんは、
5時間を切るタイムでゴール。
いやいや、大したものです。

参加者にふるまわれるきのこ汁を
二人で芝生に座り込んで食べながら
Sさんの反省会は止まらない。

「あの坂、たいしたことなかったよ」
「いやぁ、ホント頑張った。」
「満足、満足。」
「念願かなったよぉ〜。」

申し込み時に、「石にかじりついてでも4時間切るゾ」
と言っていたことは、すっかり忘れているようです(笑)

・・・

感じたことはたくさんあるけど、
言葉ではうまく説明できません。

ただひとつ。
福島は、とても美しいところです。

後に続く世代に、
この美しさを引き継ぐのが、
ぼくら大人たちの責任だな。

これからも出来ることをやっていこう。
たぶん、
走ることくらいしか
出来ないかもしれないけど。